「ステンレス鋳物の材質」と「(いわゆる)ステンレスの材質」と同じなのか・・・その答えはこちらです。

その他

 「ステンレスは、SUS304とか、SUS316とかあるけど、ステンレス鋳物ってこれと同じ材質なの?SCSとか言うじゃない、同じステンレスなの?正直よく分からないんだよね・・・」

 あるお客様からこんなお話を聞いたことがあります。そして同時に、「すごい方だな」と感じたことを今でも覚えています。通常ステンレスというと、「ああ錆びずらい素材だよね」と言うのが一般的ですが、ステンレスが「鋳物」で作られた場合、それが同じ材質かどうかを聞かれる・・・ということはとても素材について洞察が深い方なんだと感じたわけです。

※「ステンレス鋳物のプロ」は創業79年の経験から、鋳物技術、ステンレス等素材の特性、そして厨房機器・食品機械メーカー様の業界特徴やニーズを熟知した上であらゆる対策を講じることが可能な「ものづくり設計サポーター」です。

 今、鉄から非鉄素材への転換が進んでいます。具体的に言いますとアルミやステンレスへの転換です。これは鉄がどうしても錆びてしまう、そしてそれを防ぐために塗装やメッキをするのですが、それらも特に高温多湿の環境では劣化をしてしまい結局剥離をしてしまいます。それらが異物混入の原因になることがあるためそのようなリスクを避けるために素材の転換が進んでいるのです。

 そこで、問題になるのが、いわゆる普段から使われているステンレス素材と「ステンレス鋳物」とでは、同じ性能が得られるのかということです。それが冒頭のお客様のお話です(アルミについては今回割愛します)。

 さて、結論から言いますと、ステンレス鋳物といわゆるステンレス鋼材の材質、これらば厳密に言うと、同一ではありませんが、「相当品」という括りで語ることが出来ます。

 詳細を語る前に、「ステンレス鋳物」の定義についてしっかりと伝える必要があります。

「ステンレス鋳物」は「ステンレス」と「鋳物」という2つの言葉に分かれます。

 「ステンレス」は、「鉄に一定量以上のクロムを含ませた、腐食に対する耐性を持つ合金鋼」と定義されますが、簡単に言うと、「クロムを含有させることで錆びずらくした鉄」と言えます(実は、ステンレスの主成分は鉄なんです)。これは皆さん一般的によく知っていると思います。

 では「鋳物」ですが、これは「溶けた金属を溶かして型に流し込んで成形したもの」となります。

 なので、ステンレス鋳物は「溶けたステンレスを型に流し込んで成形したもの」となるわけです。

 そして、一般鋼材としてのステンレスは「SUS」という記号ですが、「ステンレス鋳物」の場合は「SCS」という記号で語られます。ちなみに、SCSはSteel casting stainlessの略で、Castingが「鋳物」の意味です。

 さて、ここで本題ですが、SUS304を例に上げてお伝えします。

 通常よく使われるSUS304という材質。こちらは18-8ステンレスと言われ、クロム18%、ニッケル8%が含有されている合金です。ではSUS304の鋳物を作ってほしいと言われたとします。そうすると、「SUS304ではないのですが、SUS304相当の鋳物の製作は出来ます」と答えることになります。そして、それは「SCS13」という素材になります。

なんか理屈っぽくて、まどろっこしくて、ややこしいですよね・・・。でもしょうがないんですね。

もう少しだけ詳しく説明をしていきます。JIS規格のSUS304の成分を見ると

C(炭素)Si(シリコン)Mn(マンガン)P(リン)S(硫黄)Ni(ニッケル)Cr(クロム)
0.08以下1.00以下2.00以下0.045以下0.030以下8.00~10.5018.00~20.00

次にSCS13の成分を見ると

C(炭素)Si(シリコン)Mn(マンガン)P(リン)S(硫黄)Ni(ニッケル)Cr(クロム)
0.08以下2.00以下2.00以下0.040以下0.040以下8.00~11.0018.00~21.00

となります。例えばSi(シリコン)は1%違っています(SUS304が1.00%以下に対し、SCS13は2%以下)。

これは、「鋳物」が溶かして流すという工程があるためどうしても「流動性」を高めなくてはいけません。そのためにシリコンの%が多くなることをJIS規格で認めているためです。

このように、SUS304とSCS13とは、成分の基準が若干違うものの、殆ど同じのため、強度などの機械的性質や、防食性などは変わりありません。なので、SCS13はSUS304の成分基準から外れることもあるのですが、ほぼ同じなので「SUS304相当の鋳物」となるわけです。

閑話休題:

私の住んでいる川口市は東京都から電車で3分です。なので「ほぼ東京」あるいは「東京相当のまち」と言われています。SUS304とSCS13と同じイメージです(笑)。

 上記の通り、SUS304とSCS13は殆ど成分的に同一なため、ほぼ同じと言って良いということになります。同様にSUS316は、SCS14Aに相当するなど、普段お使いの材質相当のステンレス鋳物を作ることが出来るのです。

 ちなみに、モリチュウで一番よく使われているのはSUS304に相当するSCS13です。こちらは需要も多いため普段からよく生産している材質です。特殊な材質の場合「一釜分」(ひとかまぶん)溶かさないといけないのですが(他への転用が難しいため)、SCS13の場合は普段から溶かしているので、少量でも対応可能となります。

 このように、普段から良くお使いのステンレス素材相当の成分で「鋳物」を製作することができます。つまり、いわゆるステレンスのイメージそのままで鋳物への転用が可能となります。そして、それにより様々なメリットを感じていただける場面もあるかと思います。

 もしステンレス鋳物の成分について心配されているようであれば、心配ご無用。是非これを機に、ステンレス鋳物のご検討を進めてはいかがでしょうか。

追伸:

モリチュウでは、お客様のニーズに合わせて、素材や製造方法のご提案をしています。

調達面での課題、開発面での課題について、お話を聞きながら解決策のご提案をいたします。進めてしまってから後に戻るリスクを避けるためにも、今モヤモヤしていることがあれば、是非以下URLよりお問い合わせください。何か新しいヒントが見つかるかもしれません。

これからも、こちらのコラムでは、素材や製造方法、そしてお客様のお役に立つ取り組みなどをご紹介していきます。

株式会社モリチュウ 

代表取締役 森 雄児

お問い合わせ・資料請求